カレーには、その店ならではの物語がある。スパイスの香り、素材の味わい、重ねられたひと手間。その一皿の奥には、料理人のこだわりと、今日の味へとつながる歩みがある。知るほどに味わい深い、箱根のカレー。ミスモ箱根編集部が選んだ、とっておきの一皿をご紹介。
一世紀受け継がれる伝統の味
―富士屋ホテル

日本初の本格リゾートホテルとして1878(明治11)年に開業。外国人専用ホテルの時代を含め、多くの賓客を迎えてきた「富士屋ホテル」。日本の近代化が進む中、日本におけるカレーの黎明期に誕生したのが、ホテルで不動の人気を誇るビーフカレーだ。
「酸味と甘み、コクのバランスがほどよくとれた、唯一無二の味わいが一番の魅力です」。こう話すのは、富士屋ホテル総括料理長の小池智宏さん。100年続くおいしさの秘密は、レストランで提供する自家製コンソメが使われているから。「洋風だしであるブイヨンがベースのカレーと食べ比べると、味の違いは歴然です」。牛乳で煮出したココナツを使用するのも特色で、マイルドで奥深い味わいに仕上がるという。
「コンソメに3日、カレーに1日、味を落ち着かせるのに2日。手間を惜しまず作るからこそ出せる味があります」と小池さん。お値段的に気軽に味わえる一皿ではないが、非日常の雅な空間と相まって、その価値に見合う、否、それ以上の感動に出会えるはずだ。


養鶏場が誕生のきっかけに
―箱根ホテル小涌園

弾力がありながらもホロリとくずれる柔らかな鶏肉。チキンのコクと野菜の甘みが溶け込んだ、食欲をそそるルーの色、そして香り。子どもから大人まで、幅広い世代に愛される一皿、それが「小涌園チキンカレー」だ。
誕生のきっかけは、温泉の地熱を生かして稼働していた養鶏場。ここで飼育した鶏を使い、1959(昭和34)年の旧箱根ホテル小涌園開業時から提供されてきた。
「ルーが完成するまで、どの工程も一瞬たりとも気を抜けません」と話すのは、このカレー作りを長年任されてきた、ビュッフェレストラン「フォンテンブロー」料理長の昆野幸洋さん。鶏肉は香ばしくグリエしてから低温調理することで、ホロホロの食感に。玉ねぎは2種の切り方を取り入れ、3時間かけて炒めて奥行きのある味わいを出し、白濁したチキンブイヨンが濃厚な旨みを加える。「ルーとご飯をまんべんなくかき混ぜて味わうのがおすすめの食べ方です」と昆野さん。ビュッフェなのでお代わりできるのもうれしい。


大涌谷の絶景とともに味わう
―OWAKUDANI KITCHEN

緑の冠ヶ岳の手前に広がる荒涼とした岩肌や立ち上る噴気など、自然のダイナミズムをリアルに体感できる観光名所、大涌谷。この絶景を一望する空間で、バラエティー豊かなカレーを楽しめるのが、箱根ロープウェイ大涌谷駅2階の「大涌谷 駅食堂」をリニューアルした「大涌谷キッチン」だ。
和風だしとデミグラスソースをベースに、厳選したスパイスを利かせた黒褐色のカレーは、想像以上に本格的。見るからに濃厚な味わいで、国産豚のジューシーな挽き肉がゴロゴロ。コクと甘みの後に追いかけてくるのは、さわやかな辛味。付け合わせの野菜を挟みながら味わうのも楽しい。
一押しは「大涌谷カレー」。温泉玉子を崩しながらいただけば、まろやかでより深みのある味わいに。さらに、素材と「剣立ち」と呼ばれる美しい衣、歯応えにこだわった「大涌谷カツカレー」、グツグツした噴気をイメージした「焼きチーズカレー」、「キッズカレー」など多彩なメニューがそろい、家族連れにもおすすめだ。


